結婚白書Ⅲ 【風花】


昼休み 女性職員達は 相変わらず新任課長の話題で持ちきり


 
「仲村課長って センス良いわね ネクタイの選び方なんてツボよ

定年前の課長補佐とは大違い 自分で選ぶのかしら」


「遠野課長も無口だけどステキよね 仕事が出来る男ってカンジ

電話の声が またいいの 低くて柔らかくていい声なの」



毎年 毎年 この時期は新任課長の品定め


  
「ネクタイを選ぶのは奥様です 声が良いのは生まれつき

アナタたちねぇ 課長は結婚してるのよ 

どうしてそんなに気になるの? 他にも独身職員はいっぱいいるのに 

そっちを見たら?」



私の半ば呆れた言葉に ひとつ年下の後輩が気弱に言い返してきた



「そうだけど……でも 素敵な人は素敵に見えるんです

課長達を見たあと 他の職員を見ても差がありすぎちゃって……

桐原さんは 彼がいるからそう思うんですよ 私たち結構真剣なんです」



真剣って 真剣になっちゃいけない相手でしょう

そう……私には付き合っている彼がいる

同期で入省した男性職員で 続けて二度 同じ部署になった

人は偶然が重なると縁を感じるものらしい

仕事のあと飲みに行ったり 残業後一緒に食事をしたり

自然と職場の仲間同士で行動することが多くなる


車で送ったり 送られたり

いつのまにか 私の横には彼が座るようになっていた


みんな変に気を遣いすぎ 

私と彼を くっつけようとしてるのが見え見えだもん


彼だって ”二度も同じ職場になるなんて俺たち縁があるよな”って

縁って何よ……



いつもは真面目で 女性に対して積極的でない彼も 車という閉鎖的な

空間では 思い切った行動をとる

信号待ちのたびに 私の膝に手を置き 私の自宅の前で止まると 

前触れもなく唇を重ねてきた


そうした彼の行為はイヤじゃなかったけれど 私の気持ちと少し離れてる 

だって 体に触れられてもキスをしても 

”ドキッ” としたり  ”ゾワゾワ” したような感じがない



その後 当然の成り行きで彼と関係を持った

これだって 彼の部屋でなんとなくそうなっただけ

部屋に遊びに行ったときから そうなるような気はしていた 

でも そんな関係になったからといって 

彼との恋愛にのめり込むかと言えば 答えはNO

私は恋愛に真剣になれない…… 




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