結婚白書Ⅲ 【風花】


和音さんは 肯定も否定もせず 黙って私の話を聞いてくれた



「何度も あきらめようと思ったの でも 無理だった

あとから あとから想いが募って どうしようもないの」



電話の向こうで 和音さんの深いため息が聞こえた



「人を想う気持ちは 誰にも止められないわね……

今夜聞いたことは 高志さんには言わないでおくわ

朋ちゃん 一人で悩まないでね いつでも電話して 

話を聞くことなら私にも出来るから」



「和音さん ありがとう」




和音さんの気持ちがありがたかった

否定されると思っていた

反対されて 怒られるんじゃないかとも……




「だいちゃんの邪魔をしちゃったわね 本当にごめんね もう寝たの?」


「もう少しで寝そう おっぱいをくわえたまま 

気持ちよさそうな顔をしてるわよ」


「おっぱいをくわえたまま? 和音さん それって 

すごい格好してるでしょう」


「そうよ 他の人には見せられない格好よ 

電話を持って 胸を出してるんだもん」



二人とも笑い出してしまった

和音さんに聞いてもらったことで 気持ちが少し軽くなった

今夜は気持ちよく眠れそうだ





各務さんからは その後何度か食事に誘われた

穏やかな印象の各務さんだったが 意外と物堅く 男っぽいところがあった

このまま この人と付き合っていけば 遠野さんを忘れられるかもしれない

そんなことを ふと思った





局外で行われた会議のあと 仲村課長と昼食をとっているときだった



「やっと元気になったようだね いいことがあったのかな

各務君が熱心に誘ってるようだけど 彼と付き合うの?」



仲村課長が いつもの穏やかな顔で聞いてきた



「まだ付き合うかどうかは……でも 各務さんっていい方ですね」


「あぁ 彼は上の方でも評価が高いよ 

君が各務君と付き合うのはいいことかもしれない

でも 本当にそれでいいのかな?」


「えっ?」


「いや 感傷に惑われて 本当の気持ちを偽っていないかと思ってね」



仲村課長が何を言いたいのかわからない

もしかして 元気がなかったことを気にしてくれていたのだろうか



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