結婚白書Ⅲ 【風花】
14.混沌


「賢吾 緊張してないようだね 大丈夫そうじゃないか」



自宅へ帰ってきて二日

妻へは まだ話を切り出せずにいた


今回 自宅に戻った理由は 幼稚園行事の参加だけではなかった

賢吾の小学校の入試があり 両親の面接が本当の目的だった



「えぇ 塾の先生も 賢吾なら大丈夫だと言ってくださってるのよ 

受験する学校 私のお教室の生徒さんのお子さんも通ってらっしゃるの 

とってもいいみたい

あの子 早生まれだけど落ち着いてるし 大丈夫だと思うわ」



鏡を見ながら 妻は もう合格したような口ぶりだった

賢吾の受験の際は 必ず帰ってきて欲しいと妻に言われていた



「両親の面接もあるの そのときは貴方も帰ってきてね」


「そんな事 約束できないよ 

だいたい どうして子どもの受験に親の面接があるんだ」


「無理にでもお願い 家庭の様子や親の品格を見るんですって」



品格だと?

そんなこと見てなんになる

そう思ったが 受験に関して妻にまかせっきりだった

保護者面接には どうしても顔を出さなければと今回休暇をとった

そのことは朋代には告げなかった

なんとなく 彼女に言い出しにくいことでもあった


妻の手入れの行き届いた爪を見ながら 

親の面接で子供が合格するわけでもないのにと そんな事を思った


  
「仕事 忙しそうだね もう僕は必要ないんじゃないか?」


「何を言ってるの これから賢吾の入学も控えてるって言うのに 

父親がいないと困るでしょう」



私は父親ではあるが 夫の役割はなくなっているような妻の言いよう



「僕は君の何だろうね 遠くに離れて給料を送ってくれる便利な存在かな?」


「急に何を言い出すの? あなた さっきから変よ 

私が向こうに行かないから機嫌が悪いのね 

それは悪いと思ってるわ でも 私だって仕事があるし 

あなただって賛成してくれたでしょう」



黙っている私の横に来て しなだれかかった



「やめてくれないか」



大きな声に 妻はビクッを体を震わせた



妻は私の機嫌をとるように なにかと気を遣う素振りを見せる

私の気を惹くようなナイトウエアが 余計白々しく見えて

そんな妻に気づかぬふりをし さっさと自分のベッドに横になった


”ダブルベッドは寝返りが気になって 熟睡できないの” 

妻の言い分で シングルベッドを二つ離して置かれた寝室は 

今の私には都合が良かった



妻は私の言葉を どこまで理解したのだろう

自分が赴任先に顔を見せないから 機嫌が悪いのだろうと その程度だろうか




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