結婚白書Ⅲ 【風花】


仲村課長から声をかけられたのは 二月に入ってすぐのこと



「家に遊びに来ませんか?」



そして 小声で”彼も一緒に”と付け加えた





臨月の奥様のお腹は 見るからに苦しそうで 立ち座りもおっくうな様子だった



「お手伝いさせてください」


「まぁ ありがとう こんな体だから助かるわ 

朋代さんと呼んでもいいかしら?

私も名前でお願いね 奥様なんて呼ばれたら返事に困っちゃうから」



コロコロとした笑い声が印象的だった

グラスとビールを部屋に運んでいくと 仲村課長が私に話しかけてきた



「家内が 桐原さんが一番大変な思いをしてるだろうって言うんだ

女同士の話もできるだろうと思ってね……

それで 二人の気持ちは決まったのかな?」


「はい」



遠野さんが答え 私も頷いた



「そうだろうな 君達の態度から 半端な気持ちじゃないことはわかっていたが

そうか……決めたのか……この先どうするつもり?」


「一度 彼女のお父さんと話をしましたが 真っ向から反対されました

娘と付き合うのはやめてくれと どんなことがあっても認めないと

言われました」



仲村課長は 悲痛な面持ちで聞いていた



「親としては当たり前の反応だろう それでも進む決心をしたってことだね 

私にも桐原さんを煽った責任があるしね 出来る限り力になるよ」


「あの 彼女をあおったとは どういうことですか?」



その言葉を聞いて ”あっ”と小さく叫んだ



「あの時 遠野さんが病気だと教えてくださったときですね

私に ”自分の気持ちを偽ってないのか” とおっしゃいました」


「はは……今頃気がついたの? 

でも 私が言わなくても 結果は同じだっただろうね」



そこまで話したとき 夕紀さんが料理を運んできた



「二人とも難しい顔をして どうしたんですか

どうぞ 温かいうちに召し上がってね 朋代さんも一緒にいただきましょう」



夕紀さんの勧めに箸をとった





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