結婚白書Ⅲ 【風花】

「君のことはわかった 最後にひとつ 来年度の予定はどうなっている 

そろそろ転勤の話もでていると思うが」


「はい 転勤になる可能性もありましたので 

あと一年 こちらにいるように希望を出したところです」



お父さんは 腕組みをしてじっと聞いていたが 決心したように顔をあげた



「遠野君 来年度は転勤して欲しい ここを離れた方がいいだろう」



お父さんの言葉に驚いたが その後に続いた話に 

父親とは こんなにも娘のことを考えるのかと胸が熱くなった 



「同じ局内にいて 職員同士が結婚するとなれば 

何かと不便なこともおこってくるだろうし 余計な詮索もされかねない

それよりも 転勤と同時に籍を入れれば 赴任先で手続きも

スムーズにいくんじゃないか」


「あの……許していただけるのですか」


「もう私たちに反対する理由はないよ 君の話を聞いて私も腹を決めた 

そうなれば 少しでも娘に負担がかからないようにしてやりたいと思ってね」



このとき お父さんの笑みを初めて見た

はにかんだ顔が 娘の行く末を案じながら 手放す準備をしている

父親の顔に見えて このときの顔は一生忘れられないだろうと思った



「ありがとうございます」


「遠野君 礼はまだ早いよ 君の希望を取り下げてもらい 

新たに赴任先が決まってからだ このことは まだ朋代には言わないで欲しい 


人事に関して一般職員が知っているとなれば困るからね」



立ち上がり頭を下げた

私への配慮や気遣いがありがたく しばらく声を発することが出来なかった



「私の方もできるだけ手を尽くすつもりだが 現場を離れて久しい

今の私に どれほどの力があるか あてにはならないがね

牧野君にも相談にのってもらった方がいいだろう 局長にも話を通しておくよ」



その後 朋代とお母さんを呼び いきなりこう告げた 

 

「朋代 遠野君のご両親が年末に帰国されるそうだ 

一緒に上京して ご挨拶をしてきなさい

ご両親の許可を頂かないうちに お父さんたちがどうこう言うわけにはいかない

話はそれからだ」



お母さんの安心した顔

朋代の信じられないという顔


朋代の顔が みるみる泣き顔になり その場に座り込んでしまった




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