結婚白書Ⅲ 【風花】


地元で美味しい店 珍しい場所など いろいろ教えもらった

人の良さそうな野間君は 一生懸命話掛けてくれる

彼女は ときどき頷くだけ ほとんど口を挟まない

恋人同士 もっと親しげに振る舞ってのいいのにと 

そんな心配をしたくなるほどあっさりしている


私の前で遠慮しているのだろうか

それにしても 女の子にこんな顔をさせちゃいけないな

もっと 楽しい時期だろうに……


野間君が席を外すと 彼女が話しかけてきた



「課長 昨日は大丈夫でしたか?ご家族の方はお留守みたいだったし 

気になってました」


「桐原さんには本当に迷惑を掛けたね ありがとう 

昼まで寝てたら気分も良くなった もう大丈夫だよ

今度 お礼にランチでもご馳走するよ 誘ってもいいかな」



彼女の顔が 華やかな笑顔になった

彼といるときは見せなかった その笑顔に 私の中で何かが揺れた

その思いがなんなのか 戸惑いを覚えたが 

彼女に悟られてはいけない気がした



「野間君は桐原さんの彼氏? 付き合いが長いのかな」



”そう見えましたか?” と言うと あとは笑って答えてはくれなかった 


私が店の支払いをすると 二人とも恐縮していたが

「ありがとうございました」 そう言って 二人仲良く頭を下げた



なんとなく 店の前で二人の後ろ姿を見送っていたら

野間君が桐原さんの手をとり 手をつないで歩くのが見えた

その光景は 私を動揺させたと同時に不愉快にさせた

ふいに湧いた感情だった


私は何に対して不愉快になっているのだろう

恋人同士 手をつないで悪いことなどない

むしろほほえましく写る光景のはず……


私の感情に 今まで感じたことのない部分が動き出した瞬間だった





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