結婚白書Ⅲ 【風花】
22.平穏


着任して二週間が過ぎた

今までと同じように 朝 自分でコーヒーを淹れる

思いがけず別居を余儀なくされた 結婚生活の始まりになっていた


一緒にこちらへ来た朋代だったが 数日滞在して 私が生活できるように

整えてから また実家に戻った

退職後の手続きが残っており それらを済ませ 二日ほどで私の元に

戻る手はずになっていた


朋代が実家に帰った日のことだった 



「お父さんが大変なことになっていたの」



二日前 義父が庭の手入れの際 脚立から落ちて救急車で運ばれたそうだ

怪我をした義父を支えたため 義母も腰を痛め自由に動けないと……

私たちを気遣って 連絡を控えていたようだと朋代の沈んだ声だった



「すぐ病院に行ったの お父さんの症状が聞いていたより悪くて

足を骨折して当分寝たきりだって お母さんも腰痛が悪化して 

通院が必要みたい」


「お母さんがさぞ困ってらっしゃることだろう 

僕は大丈夫だよ 落ち着くまでそっちにいるといい」



朋代は 当分実家を離れられそうになかった






桐原の義父の入院が思いのほか長引き 朋代が赴任先に来るのが遅れていた

電話で私の心配をしていたが お義父さんの看病を優先するように伝えると 

朋代の安心した声が返ってきた



「お父さん 自分は動けないくせに 私には早く帰れって言うけど 

そうも行かなくて

お母さんの腰も だいぶ良くなったから あともう少しだけ 

わがままを言わせてね」

 

新婚早々単身生活になった




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