恋はいっぽから!(続編)~夜明けの珈琲~
「それにしても…、随分荷物が少ないな。」
ほどよく時間が経った頃合いを見て……、
いよいよ、本題に入る。
彼女がここに持ってきたのは…、
アジアンテイストの、さほど大きくもない……トートバッグ。
そういえば…雨に濡れてしまった服も、タイダイ染めの、鮮やかだけれどどこか上品な…エスニックワンピースだった。
いずれにしても…、大人っぽい中にも、彼女らしい可愛らしさがあった気がする。
「ええ。…置いて来ましたから。」
「……。どこに?」
「…実家です。」
どうやら…、家出したわけではないらしい。
「……へぇ…、里帰り?GWにも帰って来なかったのに…珍しいな。」
「それだと電車も街中も込むので…、時期をずらしたんです。」
「いつ帰んの?」
「月曜の始発で…。」
「……ふーん。連絡くらい入れろよ。迎えくらいは…行けた。」
「……ごめんなさい。」
「や、別に謝らなくても…。」
今の「ごめんなさい」は、そのつもりはなかったってことか……。
「……。……で?」
「………。…と、いいますと?」
「だから。ここに来る予定はなかったんだろ?それが何で…こうなった?」
「………。実は…。」
………。
「祖父と喧嘩になってしまって。」
「喧嘩?」
彼女の祖父…と言えば、彼女に負けず劣らずぶっ飛んだ人ではあるが…。
言い争いは、日常茶飯事。
よほどのことが…あったのだろう。
「…ええ。彼が大切にしているものを、お借りしていた所……。」
「…………。」
「…それを落として、壊して…しまったのです。」
「………。あー…、なる程。」
大切にしているものならば…、怒って当然かもしれない。
「…直せないのか?それとも、新しい物を買うとか……。つか、何を壊したの?」
「………。バードウォッチングビギナーズセットについて来る…、『子供にも使いやすい小型双眼鏡』です。」
「…………!」
「ちなみに…、セットで4800圓也。」
安っ……
つーか……、
それでここまで不幸のどん底であるかのように落ち込む彼女も…
ある意味…
凄い。