詩集 詩悪魔 ―Daimon Poiesis―
ファルセット




『ファルセット』


真夜中にやってくる淫魔が
僕の喉を犯すとき
まるでカストラートの嘆きのような
細いファルセットを自分の耳で聴く

目を見開いているのは
確かめたいのか
それとも絶望しているからか
後者だろう
これを避けるすべがない
短いブレスの嵐の中で
永劫に喘ぎ続ける

狂気…狂気…狂気…
魔境…魔境…魔境…
孤独…孤独…孤独…
何度過ごしても決して
慣れはしない
夜が白みかけても許されはしない

本当は許されたいのだ
許容量いっぱい詰め込めるだけの
下賜された淫液で空虚が
満たされたかのような錯覚に悶え
まるで生きてるような湿度と潤滑に
欺かれる僕のたったひとつの鎮痛剤
絶望から1mm皮下が麻痺しただけで
吹きすさぶような快楽に
圧し潰されそうになる
どちらが苦痛なんだろう
空虚と罪とでは?

アリアは自分の耳にしか届かない
だが淫魔よ、お前を望みはしない
魔境の中で歌うのは
僕だけでいい






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