Treasure in Paradise【Brack☆Jack2】
 自由になれたのだから、もうそんな裏の世界とは関わらなくてよかったはずなのだ。

 だけど、それをしなかったのは…。


『…雨は、好きかね?』


 あの雨の日。

 唯一、あの老人だけが、自分の全てをわかってくれる気がした。

 後ろ手に隠した血だらけのナイフ。

 雨に打たれて見え ないはずの涙。

 誰にも見せたことないはずの自分の姿を曝け出した、唯一の人間。


 ――…それなのに。


 ミサトの頬を、涙が伝う。

 今この場所には、誰もいない。

 雨の代わりのシャワーは、あの時と同じように涙を隠してくれているはず。

 自分の存在というものを殺した張本人が、自分が心を許した唯一の存在だったのだ。


「ヒドイよね…」


 バスタブの中に蹲り、ミサトは肩を震わせて泣いた。
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