二手合わせ



手探りでカバンからケータイを取り出す。

まだスマホに替えていないからガラケーのままなんだけど。


ケータイをパカッと開く。
電源…ついているんだろうか。


分からないから、閉じて、制服のポケットに入れた。

昨日着ていた着物は大きかったから着替え直した。

それに、この時代のものをあまり身に付けたくない。

物を食べないのもその理由だった。


「お父さん…お母さん…」


会いたい、帰りたい。

じわり、涙が滲む。
と、その時


「入るぞ」


永倉さんの声がしたあと、続いて障子が開く音がした。


「昼飯だ、食え」

「……置いておいて下さい」

「今、食え」

「………」


私だって、治すために食べなきゃいけないことも分かってる。

でも
何も見えない状態で
箸を持ち、食事をするのは難しいよ。

そう考える私の思考を察したのか


「食いにくいと思って握り飯にした」


と、永倉さんは言って、私にお握りを持たせた。


よ、用意周到…。



< 59 / 77 >

この作品をシェア

pagetop