鳴る骨
食べ終わったあと、改めて田島の部屋を見ると、それは一間しかない小さな部屋だった。キッチンといえば聞こえがよい、かろうじて自炊できるようなコンロ台と流しがあったが、もう長いこと使われていないようで、こびりつく油しみこそないものの、埃がたまっていた。水まわりはそれなりにきれいだった。ゴミ箱には、コンビニで売られている惣菜の残りが、すました顔で入っている。どうやらバイト先で廃棄された食品で食事をすませているらしい。そのせいで、あのこぢんまりとした台所が汚れていないのだろう。私は、田島の栄養失調になりかけているかのような青白い肌を見ようとした。つと彼は、私の隣から立っていって、小さなエアコンのスイッチを入れた。温風が吹き出し、二人で顔を見合わせて微笑んだ。


温かい風が部屋を駆け巡り、私たちも背中を丸めずにすむようになった頃、部屋の片隅から、独特の臭いが漂ってきた。


「なんの臭いだろう」


私が、独り言のようにつぶやくと、田島が教えてくれた。


「僕が描いた油彩画を、何点か部屋の隅に置いているんです。日光が当たらないように押入れの中に保管しているんですよ。その絵の具の臭いじゃないかな。僕は慣れているから、よくわからないけれど」


「ああ、なるほど。よかったら見たいな」


田島は快諾した。私は、彼が押入れから絵を取り出そうとする背中を横目に、部屋の中をとっくり観察した。そこは、情報源といえば古い型のラジオしかなく、防寒のためか灰色のカーテンが閉じられたままで、随分古いエアコンと見た目に寒々しい蛍光灯で暖をとるしかない、時間が止まったかのような錯覚に陥る部屋だった。時計も、私の腕時計と比べて五分遅れている。電池を買う余裕がなかったのか、時計の針はもうすぐ役目を終えようとするかのようにのろのろと時を刻んでいる。その部屋には、流行のCDも、小説の類も、もちろん田島くらいの青年が熱中しそうなゲーム機もなかった。黒い机の上に置かれた携帯電話も、数年前のモデルを大事に使っているようだった。かいつまんでいえば、この部屋は住む者のつつましさ―貧窮は仕方ないものであるにせよ―を象徴するようなものだったのである。
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