超能力者は暇ではない
吉井から連絡があったのは、翌日の朝のことだった。
家に帰らずにファミレスで時間を潰していた京と久保は、霧雨の中病院へと向かった。
吉井に案内されて個室に入ると、リオがベッドの中から手を振った。
「京様、久保さん……」
声は弱々しいが、顔色は良い。
「リオ、調子はどうだ?」
「全然大した事ないですよ!もう動けますし……」
そう言って起き上がろうとするリオを、吉井が止める。
「まだしばらく横になっていなさい。君は生きているのが奇跡だと言っても過言ではないくらい重傷だったんだからね」
吉井は呆れ顔でそう言うと、京に「あまり無理はさせないように」と呟いて病室を出ていった。
妙な沈黙が三人を包む。
リオは心配そうに佇む二人の顔を交互に見ると、ふふっと笑いかけた。
「なんて顔してるんですか。僕なら大丈夫ですよ!」
「……リオ、すまない」
京が小さな声で謝る。
久保も申し訳なさそうに頭を下げた。
「だから、僕は平気ですから謝らないでください!むしろ謝りたいのは僕のほうですよっ!」
リオは怒ったような顔でそう言うと、しばらく間を置いてから口を開いた。
「京様、久保さん……本当にごめんなさい。僕、無茶しすぎました」
「本当だよ!テメーは無茶しすぎなんだよアホ!」
急にいつもの口調に戻った京に、リオが笑顔を向ける。
「あはっ、いつもの京様だ」
「あはっ、じゃねーよ!だいたいおまえはいっつも面倒事に首突っ込んで、少しは心配する側の身にもなれってんだ」
フンッと顔を背ける京を久保が押し退ける。
「そうだよリオくん!確かにオレらは頼り無いかもしれないけど、リオくんのことは誰よりも大切に思ってるんだからね?京くんなんか、リオくんが目を覚まさない間ずっと自分を責めて落ち込んでて……」
「おまっ、それは言わない約束だったろうが!!」
久保と京の言い争いを聞きながら、リオは少しだけ目に涙を浮かべた。
「リオ?どうした!?」
リオは首を横に振ると、焦って顔を覗き込む京と久保を見つめた。
「ごめんなさい……僕、すごい幸せ者だ」
リオの言葉に、京と久保は顔を見合わせて笑った。
リオも笑った。