ロマンチックに欠く女


「お邪魔します」



そんなことを言いながら玄関に入ると、相変わらずの殺風景だった。
日向の家は2階建ての家で、玄関の突き当たりにリビングとダイニング、その右隣に和室。左はトイレと風呂場で、リビングの隅にある階段を上がれば、日向の部屋とお義父さんの寝室があるらしい。あと、物置部屋。
何故ここまで詳しいのかと言えば、彼女に事前に説明を受けていたからだ。

そして、彼女の家を訪れるにあたって、条件を言い渡された。




『いいですか、絶対和室は覗かないで下さい入らないで下さい襖を開けないで下さい。もし開ければ即刻縁を切りますから』




絶対入るなと言われれば、入りたくなるのが人間の性だけれど、彼女の最後のセリフに俺は深く好奇心ストップと唱え続けた。
まぁ、人の家を訪ねると、大抵どこかの部屋は閉じてあるものだしね。俺もよくやる。どこか一か所に荷物を固めておいて、自分の部屋をきれいに見せる技。

日向の家を見渡せば、無駄な物が何一つない閑散とした部屋だった。勿論、お義父さんは仕事でいらっしゃらない。




「先輩は先に上がってて下さい。お茶入れていきますから」




「………」




ちょっと感動した。どうやら一応彼氏として招き入れてもらえているらしい。

彼女の部屋にあげてもらうのは初めてのことだ。何だかそれだけで鼻血が出そうになる。…いかん、まだ早い。これからだ。己を寒中水泳をするが如く戒め、頭からバラ色の想像を追い払い、彼女に言われるまま階段を上がった。
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