森の奥の沼の話【短編】
『いい?無理はしない事。約束よ。それから私はいつだってあなたの心の中にいるって事を忘れないで。一人じゃないって事を』


母さんはそう言うと、僕を抱きしめようとした

でも、出来なかった

この世に存在しない母さんの身体は、空気みたいなものらしい

今度は僕が少し悲しそうな顔をすると


『大丈夫。あの時、あなたがこの世に産声をあげたとき、確かにあなたを抱きしめたわ。私のこの手にしっかりと感触は残ってる』





『さあ、お行きなさい』

母さんはそう言うと消えた

そして、さっきまであんなに穏やかだった景色が、今、まさに闇に包まれようとしていた

正直、少し怖いと思った

それでも

僕は

また沼に向かって歩き出したんだ




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