涙と、残り香を抱きしめて…【完】

お前の涙は、俺の決意を揺るがす。
頼むから、そんな眼で俺を見ないでくれ…


今まで耐えてきた事が、全て水の泡になるだろ…


手を伸ばせば抱き締められるこの距離が、俺の理性を崩壊させようとしている。


この腕で、お前を包みたい…
その艶やかな髪に触れ
柔らかい唇を奪いたい。


そして、白く滑らかな肌に俺の愛を刻み付けたい…


そんな欲望を必死で抑え、俺は星良から眼を逸らした。


「そうだ…。
長い付き合いのお前と、どうやって別れようか考えてたが…

丁度、良かったよ。
成宮に感謝しないとな」

「…やっぱり、そうだったんだ…」

「あぁ…、お陰で安奈と一緒に暮らせるようになったしな」

「仁は今、幸せなんだ…」

「当然だろ?
理想の女を抱けるんだ。これ以上の幸せはないだろ?

星良はどうだ?
成宮は満足させてくれてるのか?
なんなら、お前の感じるとこ、成宮に教えといてやろうか?」


星良の顔が歪む。


「…仁って…最低…」


吐き捨てる様にそう言うと、俺をキッと睨む。


自分で選んだ事だが、辛かった…


そんな想いを悟られまいと、俺は必死で平静を装う。


本当は、誰にも触れさせたくないくせに…
ましてや成宮なんかに…


静かに立ち上がった星良が店を出て行く。


その後ろ姿さえ、俺は見る事が出来なかったんだ…

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