涙と、残り香を抱きしめて…【完】

ピンク・マーベルの中で、一番、私を理解してくれてた仁。
私がどれほどファッションに興味があり、一生懸命だったか知ってる仁が…
なぜ?


「どうして…なの?」


青ざめる私に、仁は顔色一つ変えず言う。


「自分のした事を考えろ。
社に迷惑を掛けたんだ。暫くはデザイン部門から離れてもらう」

「酷い…
酷いよ!!仁!!」

「その呼び方は…やめろ…
俺と島津はもう、下の名前で呼び合う仲じゃない」


そう言って、私に背を向ける。


何度も抱きしめた懐かしい背中…
その広い背中が、私を拒絶しているみたいだった。


きっと、もう何を言っても無駄なんだ…


私は諦め、すごすごと専務室を出ると、ランチの約束をしてた明日香さんと成宮さんが待つカフェへと急ぐ。


柔らかな日差しが差し込む窓際の席に座った2人が私に気付き、明日香さんが手を振ってる。


動揺した自分を見られたくなくて、平然と席に着いたが「専務の話しって、なんだったの?」と明日香さんに聞かれ心が乱れた。


「うん…。私、移動だって」

「移動って、どこに?」

「…コールセンター」

「はぁ?」


大声を上げたのは、成宮さんだった。


「なんだそれ?なんで星良がコールセンターなんだ?」

「会社に迷惑掛けたから、責任取れって事だと思う」

「何言ってる?
星良をモデルにした事で、売り上げは上々なんだぞ!!
感謝されて当然じゃねぇか?
それを、あのヤロー…」


怒り狂う成宮さんの横で、明日香さんが暗い顔をして呟く。


「でも…ちょっとヤな噂聞いたんだよね」

「噂?」

「そう…人事の子達が話してるの聞いたんだけど、専務…取締役から外されたそうよ」


えっ…?


「それ、どういう事?」


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