涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「それで、成宮さんは今どこに居るんですか?」

「成宮は、名駅(めいえき)のビジネスホテルに居るわ」

「そうだったんですか…」


もしかして東京に帰ってしまったんじゃないかと思っていたけど、意外と近い所に居たんだ…


「なんでも、突発的にマンションを出てしまったけど、冷静になって考えてみると、自分はなんてバカな事をしたんだろう…って、後悔したそうよ。

それで、とにかく私に謝ろうと思ったみいたいね。
でも、スマホを持ってこなかったから私の携帯の番号が分からない。

かと言って、直接会いに来る勇気もなくて、東京の事務所に番号を聞いたけど、なかなか教えてもらえなかったから連絡が遅くなったって謝ってたわ」


マダム凛子の話しを聞きながら、私は違和感を覚えた。


そんなに必死になってまでマダム凛子と連絡を取ろうとしたのに、どうして私には何も言ってこなかったの?


彼女なのに…私の事など、頭に無かったの?


「…島津さん、あなた今、どうして自分には連絡してこなかったんだろう…って思ったでしょ?」

「あ…いえ…」


自分の気持ちをズバリ言い当てられ焦る。


「それが男ってモノよ。
好きな相手には、自分の弱い部分を見せたくない。
人一倍プライドが高い成宮なら余計にそう思ったはず」

「あ…」

「あの子から連絡し辛いかもしれないから、あなたからしてあげなさい」


そう言って、バックから黒革の手帳を取り出すとページを破り私に差し出した。


そこには、ホテルの名前と部屋番号が書いてあった。


「成宮は、そこに居るわ」


「有難う御座います」と頭を下げた時、フッとある疑問が湧き上がったきたんだ…


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