涙と、残り香を抱きしめて…【完】

さすがに焦った。


「あの…み、水沢…専務…
これは…その…」


だが、水沢専務は顔色一つ変えず
島津星良の首根っこを掴み
畳の上をズルズル引きずっていく。


それに、今気付いたが
あんな濃厚なキスシーンを見せ付けられたにも関わらず
周りの社員は全く動揺していない。


それどころか、まるで何事も無かった様に
普通に飲んで笑ってる。


「悪かったな」


えっ…なんで水沢専務が謝るんだ?


「島津は酔うとクセが悪くてな…
キス魔なんだよ」

「キス魔?じゃあ…」

「相手は誰でもいいみたいだから
被害者続出で困ってる」


ため息を漏らしながら
既に寝息を立てている島津星良を見下している水沢専務


マジかよ?
相手は誰でもいいって…
たまたま俺だったって事なのか?


「西課長、この酔っぱらいどうする?」

「あぁ、水沢専務持ってって下さい」

「…分かった」


おいおい。
持ってって?
いいのか?


呆れ顔の水沢専務は、爆睡している島津星良を背負い
部屋を出て行った。


呆然とその姿を見送っていた俺に
西課長が笑いながらお酌してくる。


「驚いたでしょ?成宮部長補佐」

「あ、あぁ…」


今だ動揺してる俺に、西課長は平然とした顔で言う。


「これで成宮部長補佐も
晴れて"チーム島津"になったって事ですよ」

「どういう意味だ?」

「ここに居る全員…男女問わず
島津部長のキスの餌食になってるんですよ」

「なっ…全員?」



< 19 / 354 >

この作品をシェア

pagetop