涙と、残り香を抱きしめて…【完】

私だって、奥さんが居るのを承知で仁と付き合ったんだもの。
どんな形であろうと、それが酷い裏切り行為でも、愛してしまったら…


もう引き返せない…
それが、許されぬ恋だとしても…


成宮さんも私と同じ様に、眠れぬ夜を過ごしているのかもしれない。


そう考えると、自分だけが辛いんだと思ってた私の心に別の感情が芽生え始めたんだ。


「桐子先生…私、桐子先生に黙っていた事があります」

「黙ってた事?何?」

「これは、マダム凛子にも言ってない事なんですが…
今回のショーが無事終わったら、彼と別れるつもりなんです」


絶句する桐子先生。


「彼、他に好きな女性が居て、最近まで東京で同棲してたんです。
彼が本当に好きなのは、多分…その女性。
だから、私…」

「島津さん…」


桐子先生の温かい手が私の手を優しく包み込む。


「桐子先生の話しを聞いて、分かったんです。
皆辛いんだって…
彼も、その女性も…」


眉を下げた桐子先生が「余計な話しをしてしまったかしら…」と申し訳なさそうに言う。


私は首を左右に大きく振り桐子先生の手を握り返した。


「そんな事ないです。大切な事を気付かせてくれた桐子先生に感謝してます。
それに、彼が他の女性と同棲した事で、分かった事があるんです。

実は私、成宮さんと付き合う前、奥さんの居る男性と不倫してて…」

「本当なの?」

「はい。その人とは色々あって、すれ違い別れてしまったんですけど、今になって彼が本気で私を愛してくれてた事が分かって、やっぱり私には彼しか居ないって思う様になったんです。

ムシのいい話しですが、出来ればその人ともう一度、やり直したい…」

「そう…」

「でも、彼には既に好きな人が居るみたいで…
どうなるか分かりませんが、私の気持ちだけは伝えようと思ってます」

「そうね。それがいいわ」


桐子先生が微笑みながら私の体を引き寄せハグしてくれた。
そして穏やかな優しい声で囁いたんだ…


「本当に好きな人と幸せになりなさい…私の様に…」



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