涙と、残り香を抱きしめて…【完】

あれは…
1年前の冬…


いつもの様に、星良の部屋の風呂から出て
リビングに向かい
少し開いたドアを開けようとした時だった。


ソアァーに座った星良が、何かをジッと眺めていた。


その横顔は、とても寂しそうで
思わずドアを開ける手を止める。


星良の手に、白いカードの様なモノが見え
ソレを食い入るように見つめてる。


なんだ?アレは?


暫くの間、俺は何度もため息をつく星良に声を掛ける事が出来ず
その場に立ち尽くしていた。


すると、俺に気付いた星良が
慌てた様子で、ソレをソファーのクッションの下に隠し
ニッコリ笑う。


でもそれは、本当の笑顔ではなく
必死で作ってる偽りの笑顔にしか見えなかった。


前から観たかったレンタルDVDを観ている間も
星良の背中のクッションの裏に隠れてるモノが気になって
全く集中出来ない。


やっと星良が風呂に入りに行き
まだ星良の体温が残るクッションを持ち上げると
そこには、二つ折りのカードがあった。


「招待状…」


金色に縁どられれたカードは
友達からの結婚式の招待状だった。


「星良…」


アイツが、どんな気持ちでコレを見ていたのか
容易に想像がつく


俺には結婚なんて興味ないとか強がっていたが
本当は結婚に憧れてたんだな…


すまない…星良
本当に、すまない。


お前を苦しめる事が分かっていながら
俺は星良を自分のモノにした。


その事が、お前の人生を狂わせてしまったのかもしれない。


俺と出逢わなければ
星良は今頃、誰かの可愛い奥さんになっていたかもしれないのにな…


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