涙と、残り香を抱きしめて…【完】

すっかり潰れてしまった星良の体を支え、ため息を漏らすと、いつからそこに居たのか…


水沢専務が呆れた顔で手を差し出す。


「困ったヤツだな…」


その手は、迷う事無く意識が飛んだ星良の腕を掴み
彼女の体を引き寄せようとしてる。


また、保護者ヅラかよ?


ムッとして、水沢専務の顔を見上げた時だった…


「ヤっ…。離して!!」


ほとんど意識の無かった星良が大声を上げ、水沢専務の手を払いのけたんだ。


「しま…づ…?」


突然、豹変した星良に驚いたのか
面食らった顔で彼女を見つめる水沢専務


「…また飲み過ぎたのか?しっかりしろ…
ちょっと話しがあるんだ。出よう…」

「話し?…私は専務と話すことなんてない。
私はまだ、ここに居る!!」


さっきまでのトロンとした潤んだ瞳が赤く充血し、水沢専務を睨んでいる。


「…一人じゃ、帰れないだろ?」

「帰れる…よ。いつまでも子供扱いしないで…
それに、専務が居なくても、成宮さんが…居る。
彼と帰るから…いい」


星良はそう言うと、俺の胸に顔を埋めた。
ワイシャツ越しに不規則に伝わってくる彼女の熱い吐息…
そして、柔らかい髪から漂ってくる甘い香り


もちろん、悪い気はしない。


だが、星良のその思いもよらぬ行動に、正直…驚いた。


それは水沢専務も同じだったようで、呆気に取られ言葉を失っている。


フッ……残念だったな。水沢専務。


この状況に俺は優越感を感じ
「心配ないですよ。俺が責任持って連れて帰りますから」とほくそ笑むと、小声で「…分かった」とアッサリと引き下がった水沢専務が部屋を出て行く。


そして、その後を慌てて追い掛けて行くモデルの理子。


まさか…な…


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