ブルーと副総統
SIDE 副総統1
「悪の組織、結成120周年かんぱーい!」

 会場のあちこちで『かんぱーい』という挨拶と、拍手が巻き起こる。
 そんな周りの能天気な反応の中、あたしは、むかつきつつシャンパンをすすっていた。
「姐さん、お酒足りてますか?」

 周りの部下たちが、あたしのご機嫌伺いにやってくる。
 あーめんどくさい。大体悪の組織結成120周年って中途半端なイベントは何なのよと。
 せめて設定上、1000年とか言えないものなのかしら。
 もー。本気めんどくさいんだけど。

「副総統はご機嫌斜めねぇ。一体どうしたの?」

 そう笑いながら脚本家の横○美智子先生に笑われた。

「先生~~~」

 若干半泣きになりながら抱きつく。
 同じ女としてきっと先生ならわかってくれるはず。
 あたしは見た目は150cmくらいのミニサイズだし、茶色のふわふわの髪の毛に大きな瞳で、黙ってればフランス人形みたいってよく言われる。はっきり言って可愛い。

「もうひどいんですよ。あいつら!」

 あたしはパーティ会場のある場所をさしていった。

「今日は、あたしたち悪の組織のイベントなのにっ。なんで、ピンクとか可愛いドレスはヒーローチームに取られるんですかっ!」

 もう本気、今日は気合入れて、下着も可愛い白を用意したって言うのに、ヒーローチームがピンクを着るからNGって何なのよ~~~。
 あたし副総統なのよ!? つまりナ・ン・バ・ー・2!!!
 大事なことだから二度言います。ナンバー2なのよっ!

「あーよしよし。かわいそうに。そういう気持ちわかるわ」
「で、文句言ったらうちのバカ親父ったら、悪の組織はヒーローに支えられて日夜存在するんだから布切れ一枚のことでぎゃんぎゃん言うなって~~~」

 あ、バカ親父って総統のコトね。あたしたちを統べるボス。みんな影で「親父」って呼んでたりする。ちなみにすごい強面で、ダースベイダーも真っ青な感じの容貌の癖に、憧れの悪のボスは『サンレッド』のヴァンプ将軍だったりするわけ。しかも真似して料理するんだけど、おいしくないの。

「あちゃー。正しいけどそれはちょっと、乙女心を理解しないわね…」
「デスヨネ! しかも、イメージの問題があるからこれ着なさいって…」

 そう言ってあたしは先生に自分のドレスを見せた。
 ちょっとボンテージとロリータが合わさったような黒のミニドレス。
 いやこのドレスはドレスで可愛いし、あたし以上に着こなせる子なんていないと思うの! でもでも今日は可愛く行きたかったのよ~~。
 しかもイメージの問題って、あたしが清楚じゃなくてビッチキャラだからってさ~~。否定はしないけど、面と向かって言われると流石にね!
 いやでも、男子大好物ですケドネ! そーいや最近、シテないことを思い出して、口の中に唾液が溜まりそうになった。あーぐっちゃんぐっちゃんのセックスしたい!

「まぁそれはちょっと女子としてはむかつくわよね。まぁ総統には衣装新調してもらいなさいよ。団○さんには話しておくから。」

 ま。団○さんは演劇界出身のちょっと妖しくて淫靡な衣装を作ることにかけては、他の追随を許さないクリエイター。あたしも一度は彼の衣装で戦闘に参加してみたいとは思っていた。さらに先生が妖しく笑った。

「ね、知ってる? 今のピンクって、レッドじゃなくブルーが好きらしいって」
「え?」

 ヒーローといえば、レッドが頂点なのに?
 ピンクといえば、そんなレッドのお守り役を務めつつ、時に甘く、時に厳しく彼と付き合うことを要求されているのにブルーですって!?

「ブルーってどんな感じの人でしたっけ?」

 普段、素顔で接することなんてないから、あたしは彼の顔を知らなかった。彼もあたしの顔を知らないだろう。なんてったって戦闘の場所では、顔の半分を黒のマスケーラで覆っていて白塗りメイクだから…。あと身長を補完するためにハイヒールはいてたりするし。身長も印象も今とまるで違う。

「ふふ。元気になったわね。ほらあそこの柱のところで、殺陣師と話している人わかる?」

 殺陣師の先生はあたしにとっても大事な人。なんといっても戦闘の大事な部分を握ってるひとだから、彼が現場の基本を握っているといってもおかしくない。その殺陣師の横で少し神経質そうな長髪の男が熱心に話を聴いている。ただ須藤元気を痩せさせたような立派な体格が印象的。

「あれが…ブルー?」
「そうそう。歴代ブルーの中でも結構筋肉付いていると思わない?」
「ええ。なんかスーツを着ると胸板が…。周りと比べちゃいますね」
「ピンクはどうやら筋肉フェチらしくってね、ほら、レッドってちょっと筋肉つきにくい体じゃない? 顔は甘いベビーフェイスってかんじで非常に人気高いんだけど…」
「なるほど」

 ああ。そういえば、ブルーってさ…と、先生はさらに一層妖し笑みを深くして、私に耳打ちした。 それを聞いて、あたしは舌舐めずりを思わずして先生の顔を見てしまった。

「ふふ。副総統好みの話じゃないかしら?」
「わー。流石、先生! それはいい情報です!」
「今後の脚本の参考に話聞かせてくれるなら協力するわ」

 年末の映画もあることだしね、と先生がつぶやく。
 あたしはもちろん!と言って先生とこしょこしょと作戦会議をしながらブルーを見つめ続けた。
 厚い胸板だということが、スーツの上からくっきりとわかる、長髪の男。身長は170くらい?それほど大きくないと思う。でも指が長くて器用そう。しかも、周りが談笑していても、口の端に笑みを乗せる程度で、クールだと自分のこと思って演出している感じ。
 あーん。悪くないわ。ご馳走の予感がする。彼はどういう味がするんだろうと思うとゾクゾクって背筋が震えた。
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