ノータイトルストーリー

Case:覚_phase01




ある春の事だった、サラリーマンの私はいつものように会社に向かって車を走らせていた。




私は24で結婚し、三人の子供をもうけた、





妻の康恵〔やすえ〕とは見合いで知り合ったのだが





趣味や思考なども合い、互いに惹かれ、4年の交際を経ての結婚である。





妻の康恵は多少、わがままなところもあるが、





私を良く理解してくれている。





家柄はよく世間知らずなお嬢様といった一面と





芯の強いしっかりとした一面も持ち合わせいた。





私は故郷を出ていわゆる転勤族というやつで、





なかなか落ち着いこともなかった。





最近ようやっとマイホームを購入し、





近頃は子供達も手が掛からなくなり、





パートに出ては働くようになった。




その子供達というのは、長男の晴彦〔はるひこ〕は、





転勤のたびに転校をしたせいで友人も少なく、





友達を独占したいという気持ちがあったようで、





気を引きたいがために当時、流行ったゲームやおもちゃを欲しがり、





祖父や祖母にねだったり…





時には私自身、負い目もあり、買い与えてやったものだ。





次男の基〔もとき〕は、





私も仕事が忙しく、妻の康恵も長女を身ごもっていたこともあり、





ほったらかしにしたせいか自由奔放で、





良く近所の子供とケンカをしては泣かしてしまい





謝りにもいったものだ。





叱るたびに、大人は嫌いだとか汚いとかマセた事を





言われグサリとくるものがあった。




長女の恵美〔えみ〕は、





小さい頃から体も弱く、





大人しい性格であった。





よく、基の後に着いていってはイジメられ、





泣いて帰って来て、妻がよく基を怒鳴っていたのを覚えている。




家出てしばらくするとケータイが鳴り始めた。





ちょうど赤信号で止まったので、





鞄のケータイに手を伸ばした。





すると、メールだったようですぐに鳴り止んだ。





会社に着いていつものように席に着きたばこに火を着けながら、





片目でメールを開いて見ると妻からだ…





「帰りにお醤油買って来てね」ったく…






背後に気配感じ、振り返ると後輩の佐々木がのぞき込んできた。





「奥様からメールっすか~、な~んかハートマークまで入っちゃってラブラブって感じっすね?」





「ははは、まぁな買い物頼まれて都合の良い旦那だよ、まったく…でなんか用事か?」





「いや~、用事ってことでもないんすけど…」と言って指を突き立てて





「一本良いっすか?」





「たばこくらい自分で買えよな~まったく」と言いながら、





ほいっと一本渡すと…





「いや~、今付き合ってる彼女が美香っていうんですけどね…」





「彼女たばこ嫌いで持ってるとうるさいんすよね」と苦笑いをしながら、





火を着けて口からぼうっと煙をふかして味わうように吸っている。






「お前も大変だな…」






「まぁしゃーないっす、彼女可愛いし、気立ても良いし…」





「こんな事いっちゃなんですけど、俺にはもったいないくらいっすもん」





「な~んだノロケか~、ほらもう九時だ、仕事だ仕事!」





「はぁい」と間抜け声応えると佐々木はたばこを消して外回りに出て行った。




彼が入社した時に、育成担当を私がしていたが、





今でも多少フワフワしている所もあるが、





当初は学生気分が抜けずかなり怒鳴りつけた事もあったが…






今では取引先からの評判も良くそれなりにやっているようだ。





今日は午後から会議があるから、それまでに戻れよと伝え忘れたのを、





今になって気が付いた。





まぁ、昨日の内に部内に周知されていたから、





問題ないだろうと思いながらも育成担当をしていたせいか、





世話を焼きたくなってしまう。





あいつからすれば、ありがた迷惑と言ったとこだろうか。





そんな事を考えながらもパソコンに向かい、





資料の下準備をしているのに気付き、





「やれやれ…」と思う。





昔はサラリーマンになんて、





なりたくないとさえ思っていたのに…





何となく入社した会社に二十数年勤めた結果がすっかりこれだ…





もし今、出版社が来て『本書いてみませんか?』と誘われたら間違いなく飛びつくだろう…





『くたびれたサラリーマンの作り方』…





もしくは『上手なサラリーマンの飼い方』といったタイトルで社会生活を




思い切り皮肉った中身の辞典並みに分厚い本が書けそうだ。



< 3 / 33 >

この作品をシェア

pagetop