Special Edition
彼と出逢うと分かっていたら……。
彼に抱き締めて貰えると分かっていたら……。
行き場のない想いが涙となって溢れ出す。
そんな私に気付いた彼は、ベッドから起き上がり私の手を手繰り寄せ―――。
そして、何も言わず歩き始めた。
ほんの数分前と何一つ変わってないはずの景色。
1ミリも動いてない本棚にキャビネット。
電源が落ちているテレビも同じはずなのに……。
何故だろう?
さっきとは全く違った景色に見える。
目の前の人がいるだけで、景色さえも変わって見える。
窓際のベッドの手前で停止した彼。
手は繋がれたまま。
静か過ぎるほどの室内に胸の音が響いて聞こえる。
繋がれた手から伝わる彼の体温。
離してほしくないほど心地いい。
ギュッと握り返すと、彼がゆっくりと振り返った。
「もう、寿々さんには勝てないよ」
「え?」
彼に手を引かれ、2人してベッドサイドに腰を下ろす。
「本当は卒業してから言おうと思ってたのに……」
「…………何を?」
困惑の表情の彼を覗き込む。
すると、キッと睨まれてしまった。