天使の舞―後編―
キャスパトレイユは、静かに口を開く。


「俺はただ、覇王になりたくなくて・・・。
単純に人間の娘を、妃にしたくなかっただけなんだ。」


それは、小さな声であった。


珍しく自信無げなハスキーボイスを聞いて、シュカにもキャスパトレイユの反省している気持ちが、伝わってくる。


「乃莉子様が悲しむのは勿論でございますが、それと同じに天界の娘達も悲しむという事を、お忘れなさいますな。
彼女等は皆、本気でキャスパトレイユ様の愛を勝ち取ろうと、必死で他の者と競っておりましたよ。
キャスパトレイユ様にとっては何でもない言葉一つにさえ、彼女等は、一喜一憂しておったのですぞ。」


キャスパトレイユは、しばらくシュカの前から動けずにいた。


いろんな思いが、頭を巡る。


「分かった。
シュカ。礼を言うぜ。」


キャスパトレイユは重い足取りで、元来た廊下をとぼとぼと、引き返して行った。


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