結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】

 秘密の扉



合宿の最終日 新幹線の出発時刻まで繁華街へ出かけるというサークルの

仲間と別れ 僕は実咲と一緒に また桐原の家を訪ねていた

連れがいるとは伝えていたが まさか彼女だとは思っていなかったようで 

高志おじさんに散々冷やかされたが

そんな中でも実咲は 祖父母やおじさんたちと気さくにしゃべり 

話題は僕の小さい頃の話に及んで おおいに焦った



「賢吾君ってね 小さい頃から静かな子だったけど 

ときどき羽目をはずすのよ 私にも何度か怒られたわね」


「今でもそうですよ サークルでも前に立つタイプじゃないのに 

何かあるとすごくはしゃぐんです」


「そうでしょう で 突拍子もないことをしたりするのよね」


「そうそう ちっちゃい頃からそうだったんですね」 



和音おばさんと実咲は 僕を肴に楽しそうだった

実咲の雰囲気って和音おばさんに似てるんだ そうかぁ……

だから実咲といると 気が楽なんだ……

意外な共通点をひとりで合点していると 玄関から賑やかな声が聞こえてきた



「よっ 生意気に彼女連れだってな 元気にしてたか」



要さんらしい言い方で顔を見せ すっと僕らの中に入ってくると 

いつの間にか実咲とも話をしていた



「賢吾 俺の横に立ってみろ おい鈴 どっちが大きいか見てくれ」


「うーん……微妙に賢兄ちゃんかも」



でかくなりやがってと 僕の腹に拳を入れる真似をしたあと 人懐っこい

笑みを見せてくれた



「葉月も背が伸びてましたよ 150センチを超えてたと思うけど」


「えーっ 僕 負けてる……会いたくない」



葉月と同じ歳の勇輝が 拗ねるように和音おばさんに訴え もうすぐ

帰省してくる葉月に会いたくないから帰ろうと困らせていた



「女の子と男の子では成長が違うのよ 女の子の方が早く大きくなるの 

勇輝も中学になったら背が伸びるのよ」


「じゃぁ それまで葉月には会わない」



真剣に悩む勇輝がおかしいと皆がそろって笑い出し 勇輝はますます

ふてくされていたが 鈴ちゃんが上手くなだめ 機嫌を直すのも早かった

高校受験を控え 毎日塾通いだけど みんなに会いたいから休んじゃったと 

肩をすくめてみせ 鈴ちゃんを明らかに意識している大輝と違い 

屈託のない笑顔で僕や大輝に話しかけていた 




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