もっと美味しい時間  

やっと今、あの時の母の言葉の意味が、ようやく分かった気がした。

そうだよね……。そんな簡単なこと、何ですぐに気づかなかったんだろう。
私が寂しい不安だと思っているということは、慶太郎さんだってそう思っててもおかしくない。
慶太郎さんのことだ。私に言いたいことがあっても、我慢していたに違いない。
さっきだって、何かを言おうとして止めたくらいだから……。

私の中にひとつの想いが生まれた。

---ずっと慶太郎さんのそばにいる---

そのことに気がつくと、スッと身体の力が抜けるのを感じる。
でもまだ今は、私の想いを慶太郎さんには伝えない。
明日、綾乃さんとの話しを終えて、今回のキス事件に終止符が打てたら、その時にすべてを話そう。

慶太郎さんの背中に手を回し、母がしてくれたのと同じように身体をぎゅっと抱きしめた。

「……百花?」

慶太郎さんが、不思議そうな声を出す。
それもそのはず。私は自分でも気づかないうちに涙を流していて、ひくひくとしゃくり上げていたのだから。

「何でないてるんだ? 俺いま、お前を泣かせるようなことしたか?」

何もしてないよ……。
でもなかなか泣き止むことができず、声も発することができない私は、顔をぶんぶん横に振って何もしてないことを伝えた。 


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