饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 二人が家に入ると、老神官は椅子を勧め、自身は彼らの正面に座った。
 虎邪は手に持っていた宝石の欠片を、ぽい、と前のテーブルに放った。

「取り忘れですよ」

 あえて賭けに出てみる。
 ぴくり、と老神官の顔が強張った。

 だがあからさまに狼狽えないのは、仲間意識のなせる技か。
 供物に手を触れられるのは、どこの地でも神官のみ。
 故に、供物の横領が神官の特権であることは、どこでだって共通のことだ。
 神官にとっては最早当たり前のことなので、神官同士だと咎められることでもない。

「これはこれは。どうぞ、そもそも神に捧げたものですから、都市の神官様に拾われたのなら、そちらに行くべきものなのでしょう」

 にこやかに、宝石を押し返す。
 小さいが、無価値なものではない。
 この地ではともかく、都市に行けば、いくらでも換金できるところもある。
 口止め料も入っているのだろう。

 虎邪は、ふ、と息をついた。

「俺はそういう神官の汚さが嫌いなのですよ。やたらと儀式を行っているわりには、水害は一向に減らない。そらそうですよね。儀式を行うのは、神官の懐を潤わすためなのですから」

「えっ」

 ぐるりと室内を見渡して言った虎邪に、老神官は心底驚いた顔をする。
< 34 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop