光の庭
〜中章〜
「…どんな会社に入るか、もう決めた?」

女はベンチに座ると、隣の男にたずねた。

噴水前のベンチに今日は、いく人かの人影が見えたが広く間隔が開いているので、話し声が届くという事はない…

水音が涼やかに響いて、時おり水しぶきが風にのってシャワーのように、二人の上に降り注いだ。

噴水の周りには、青い蝶々が羽を休めている…

「就職先?決めたけど、内緒」

イタズラっぽく男は笑うと「そっちは?」と女に聞き返した。

「…自分は聞くのね…ここで内緒にしても、後で分かるのに…」

「君が迷うといけないからね」

「迷いませんよ…大学出たら、音信不通に近い状態になった方が面白いって決めたし…同じ会社になったらまずいでしょ?」           
「…君があんまり自信満々だから、ハードルを上げてみた…というか、早めのギブアップを希望だね…」

男は女が、この賭けを早々に破棄する事を望んでいた。

「しないし…」

「案外、僕よりも好きになる人が現れるかもよ?そうしたら、それもありだと思うけど?」

男にとって賭けに勝つとか望みを叶えるよりも、女が幸せになればそれでいいと思っていた。

会わない間に気が変われば…という計算だ…
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