地下世界の謀略






───今だって私は、彼が道標になってくれた事をありがたく思っているらしい。



「…此処は環境最悪だけど、地上もそんないいとこじゃねえんだな」


「え?」


「そう聞こえる」


私の心を見透かしたように彼は言った。




緑の育つ、空も青い、楽園と謳われる地上世界。あそこは完璧な所だと誰もが言う。けれども、何かが欠けている世界で私は生きてきた。


月がぼんやりともう戻ることもない故郷を浮かべていると、青年の背中に顔面が塞がれた。
思わぬ衝突に声を上げると、「静かにしろ」とやけに低い声で唸った。



「……何かいる」

「さっきの変なやつ……?」

「違う」


何を根拠にしているのだか、彼はそう言い切って懐に手を忍ばせていた。
私も警戒心がピークに達し、目の前だけに集中する。



しかし、足音もなく暗闇に浮かんだ白い顔に月の全身の力がぬけた。




「────眞田(さなだ)、か?」


青年が声に慎重さを潜ませながら、聞き慣れない名前を呟く。

眞田?と呼ばれた人は青年が自分の名前を呼んだのに気づき、その面に笑みを溢した。


(………随分、悪人面だな)




「遅いから、殺られたのかと思っちゃったよ」




鋭い眼光を奇妙に光らせながら、縁起でもないことを言ってのけるこの男は青年の仲間だろうか。

……お世辞にも仲が良いようには見えないけれど。




「誰が殺られるか。寝言は寝ていえ」


こちらもばっさりと酷いことを言っている。


青年の背中の後ろでなんとも言いがたい顔をしている月を、悪人面の男が覗き込んできた。




「─────あっれ、女の子じゃん!」


「たまたま拾った」

「……その言い方やめてくれない?」

「珍しいこともあるもんだねぇ」


うんうんと、首を揺らす男は強い視線を私に向けていた。多分その中には警戒と言った言葉も含まれていると思う。


なによりじわじわと舐めるような視線が居たたまれない。





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