地下世界の謀略
理貴さんに出された珈琲は、ほんのり苦い。
私の舌が餓鬼なだけだが、隣でアルトが涼しげに飲んでいたから私もそれに対抗してイッキ飲みした。
そして悶える。
「───ああ、君。名前は?」
「えっと月、と言います」
「月さん。君は、ここの住人ではないね」
私は珈琲を持つ手を止めた。
……なんなんだろう、地下の人たちは皆一瞬にして私がこの世界の人間ではないことを見抜く。眞田というあの男もそうだった。
洞察力に尊敬を抱くと同時に、少し怖い。
悶々と思い巡らせている月と一方で、アルトと理貴は落ち着いた様子で話始めていた。
「それにしても参ったなあ。私はもう、健やかに日常を過ごしたいのに」
「それは困る。俺はもちろん、此処の神父がいなくなったらあいつ等はどうなんだよ」
「その時は君に託すよ」
「……馬鹿言うな」
彼はまた、辛そうに顔を歪める。
何度目にした光景か、それも理貴さんは分かっていたように苦笑した。
「もう、この世界にあの子達の生きていく環境が僅かしかない」
昔は棲みやすいとは言い難くとも、それなりの環境は揃っていた。緑がなくても命を繋いでいける優しさがあった。
そんな夢みたいな時代は、もはや荒廃したこの世界には存在しないのだ。