僕のとなりは君のために
逃げる客。

早く警察に連絡しないと、慌てる店員。

みんな一様にして顔から血色を失っていた。

その中、君だけは意外に冷静だった。

その場にいる人間の中で、一番の当事者である君が一番落ち着いていたのではないと思うほど、君は静かだった。

なんだか、おかしい・・・・・・

いつもの君なら、とっくに小父さんのスキをついて得意の鉄拳攻撃を繰り返してもおかしくないのに、今の君はまるで別人だ。

君は怯えてなんかいなかった。

瞳がいつもより黒く光っている。その力強い眼差しが小父さんの脅かしには屈していないことを何よりも証明している。

無表情で、心が読めない。

だけど、この威圧感は一体なんなのだろう・・・・・・

君が眉をひそめた。

グルグルと喉の奥から低い声が鳴った。

まずい!

君は何かをやらかす気だ。

もし、君が少しでも抵抗すれば、興奮した小父さんはきっと容赦なく君の胸にその鋭い刃物を潜り込ませるのだろう。

最悪の光景が目の前を掠めてゆく。

本日の、二回目の悪い予感。


「ま、待ってください」


身体が勝手に動いた。

バンザイをするように、両手を挙げ、敵意がないことを小父さんに示し、近づいた。

「落ち着いてください。あ、あの、彼女を放してもらえませんか?」

「はぁ、なんだお前! 自分の立場がわかってんのか!?」

小父さんは早い足取りで僕に寄り、蹴りを放った。

「いたっ」

蹴りが僕のみぞおちに正確に命中し、僕をよろめかせた。

胸がジーンと痛んで、それを堪える。

顔をあげると、君と目があった。


引っ込んでなさい!


君の目がそう言っている。


「ごめん、こればかりは君の言う事を聞けない」

僕は君に微笑んだ。
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