愛シテアゲル

9.果樹園の魔女さん。(1)



 指輪、せっかくもらったのに。
 

 指輪だってハジメテ。
 本当だったら、喜んで指につけるんだろうな。小鳥だってそのつもりだったのに。
 いざそうしようと思った時――。

『小鳥。それどうしたんだ』
 父ちゃんの鋭くなった目線が浮かぶ。
『姉ちゃん、それ指輪!?』
『似合わねえー。指輪がモッタイねえ』
 可愛げがある弟と、可愛げのない弟の二人が面白おかしく騒ぎ立てるからかい。
『小鳥、それ指輪だよな。あー、もしかしてもしかして』
 めざとい武ちゃん専務の意味ありげな目線とか。
『どうしたんじゃ、これ。小鳥、おめえ、男ができたのか!』
 一番やっかいなのは、お爺ちゃんになってますます遠慮ない物言いで騒ぐ、矢野じい。

 だめだ、だめだ。いちいち説明するのも、いちいち言い訳するのも、いちいちいちいち騒がれるのもイヤ!

 しかも、皆にからかわられる小鳥を、送り主である翔兄も目撃するだろうし。あの静かなお兄ちゃんのことだから、騒ぎ立てられるのもきっと好きじゃないはず。

 そんなふうに迷っているうちに指輪の指定席が決まった。

「はあ。こんなんでいいのかな」

 二十歳になったら渡そうと思った。翔兄がそういって誕生日前に小鳥の手ににぎらせてくれた『合い鍵』、カモメのキーホルダーに指輪をつけた。




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