愛シテアゲル

   アイ、あい……、愛?(2)



 信じていた恋人が手のひらを返して自分の元を去っていった時の顔と一緒だった。小鳥はあの時、いつもは落ち着いているお兄ちゃんが荒れ狂ったのを傍で見ている。彼の気が済むまでつきあったし、ついていった。

 あの時の彼は彼ではなかった。また……それが、いま、この大事な時に?

 だけれど、案じた小鳥の目の前で、翔はハンドルを握り直すと真っ直ぐに目の前を見据えた。一度アクセルを思いきり踏んで、紙一重でランサーエボリューションから頭ひとつ分前に出る。向こうがアウトカーブでやや後ろに下がった。

「社長。俺の予測、当たっていました」

 ――どういうことだ。

 そんな父の声が聞こえてきそうだった。
 彼がおちついて報告する。

「ランサーエボリューションXのドライバーは、俺の知り合いです。彼の狙いは、俺が乗っている車と俺にダメージを与えることです。小鳥にぶつかってきたのではありません。俺だと思ってぶつかってきたんです。マコのNSXは、――」

 小鳥に説明した通りのことを、翔は同じように父に報告した。淡々と言葉を連ね、淡々と運転をしている。

「学生時代、サークルで一緒だった時期があります。走り屋ではありません。外車乗りで、向こうはライトなドライブ派。サークルはすぐに退会したんですが……」

 ですが……。その後の答を、翔が躊躇っていた。


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