愛シテアゲル


「こんのあほんだら! いいかげんにせーやっ」

 ワイシャツの男が英児父の鉄拳にぶっとばされ、アスファルトに崩れ落ちる。頬を押さえ、殴りかかってきた相手をすぐに睨み返した。

「……殴ったな。訴えてもいいんだぞ!」

 そっちだって殴ったじゃない! 私と、翔兄を――! 飛び出そうとしたら、また翔に抱き返され押さえられた。小さな小鳥がなにをするかもうわかりきって止めたとわかって、ひとまず小鳥も荒れた気持ちを収める。

「おう。殴ったわ。俺は言い訳なんかしねえ。殴ったことに関して訴えるというなら、訴えてもいいぞ。弁護士でも警官でも親父でもおふくろさんでも、なんでもつれてこいや。正々堂々とやりあおうじゃねえか」

 うちの父ちゃん、元ヤンだったわりには、けっこうまともなこと言うな。ふとそう思った小鳥はちょっと納得できない。

 こんな男、弁護士だなんだとかいわないで、このまま警察に突き出しちゃえばいいじゃん! そういう腹立たしさがまた盛り上がる。もう父ちゃん、そんな生易しい回りくどいことしないでさーーっ、と、また翔の腕から飛び出そうとしたその時。小鳥は父の肩越しに見えた顔にゾッとさせられる。

 うちの父ちゃんのその顔。幼い頃から幾度か見てきたことがある、ほんとうにほんとうに『ヤバイ時の顔』。

 その男が『手を下す』と判断したら、どの男もその男の口から噴き出した業火に焼かれて叩きのめされるという。龍に変化した時の顔――。



< 218 / 382 >

この作品をシェア

pagetop