愛シテアゲル

14.姫様、いらっしゃい。(1)



 無言のまま翔が小鳥を連れ帰ったのは、港町近くのマンション自宅だった。

 リビングに入ると、渋いブラウンの小さなソファーに座らされる。

「湿布を貼ってやるから、そこで休んでいろよ」

 言われたとおりにちょこんと座って、小鳥は何も言わずに待っていた。
 


 とても静かだった。
 


 この部屋にはまだ数回しか来ていないのに、それでもホッとした。

 初めて来た時から、この部屋は翔兄らしい趣味で整っていた。なのに、今日もあのベッドルームから優しい甘い匂いがする。

 その匂いが、初めての時から不思議に感じていた。
 部屋はどこもかしこも独身男性らしい趣味で揃えられているのに、なんであそこだけ甘い匂いがするのだろう。
 そしてその匂いはとてもホッとする。でも、今思えばとてつもない違和感がある。

 ―― オマエが瞳子先輩を不幸にしたんだ。

 急に、瀬戸田という男の怒り狂った声が蘇る。
 口の中のしょっぱい血の味も相まって、心もズキズキ痛み始める。



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