愛シテアゲル

17.やんちゃ娘と淑女。(1)



 夜の静寂。いつのまにか夜空の藍に溶け込むように眠っていた。
 

 甘い、優しい匂い。でも頬を埋める白いシーツには、男の匂い。
 昨夜のままだったシーツには血の痕が残っていた。

 ここなら一人でいられるかも。そう思って頼ってきたが正解だった。

 港が近い彼の部屋は、昨夜と同じくとても静かで、そして夕日が綺麗にベッドルームに入ってきて穏やかだった。

 もう匂いはすっかり小鳥に馴染んでいて、彼がいまここにいなくても、小鳥を優しく包んでくれるあの腕の中と変わらないと感じられた。

 ベッドのシーツに顔を埋めてひとしきり涙を流すだけ流したら、昨夜からの疲れや張りっぱなしだったテンションが切れたのか、すうっと眠ってしまったようだった。
 


「小鳥。ここにいたのか」
 


 そんな声で目が覚める。
 翔が帰ってきた。
 

「親父さんが、どこに行ったのかと心配していた」

 まだ眠い目を小鳥は何度も開いては閉じた。

 頬に冷たい手。龍星轟の男達は、冬は外仕事で身体が冷えてしまう。みんな、手が冷たくなる。

 そこで小鳥はやっと目を開ける。

「翔兄。おかえり」

 シーツに頬を埋めたまま、ベッドの下で跪いて小鳥を撫でる翔と目が合う。



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