愛シテアゲル


「翔兄、やっぱり……私、」

 運転席のドアを開けた彼が解っているかのように、英児父をやっと気にした。

「俺が連れて行きたいんだ」
「その気持ちで充分だよ」

 元カノに、いまの恋人はこの子だとはっきりと解らせるために連れていくのだと思っていた。

「違う。小鳥は、俺と瞳子と瀬戸田という、ずっと大人であるはずの年長者の俺達の関係に巻き込まれた『被害者』だ。どうして車を当てられたのか、そして殴られることになったのか。殴られたことで、客商売であるアルバイトを謹慎することになってしまった。全て、大人であるはずの俺達が巻き込んだからだ。知る権利がある。親父さんにもそういって、連れていくと伝えている」

 まったく違うことを彼が考えていた。そして英児父にもきちんと伝えて、お嬢さんを連れて行くことも許してもらっている。

 男と女なんて……。もしかすると他愛もないひとつの関係性に過ぎず、もっと大事なのは『それ以前の、大人としての関係性』。それがなっていなかったから、小鳥が巻き込まれた。どうしてこんなことになったのか。そして小鳥はそれに巻き込まれて、アルバイトを謹慎することになった。

「瞳子もおなじことを言っている。小鳥が会う気がないなら仕方がないけれど、小鳥が来てくれるなら、なにもかも話す覚悟もしているし、謝りたいと……」

「そ、そうなんだ」

 彼が連れて行きたいと言い、彼女は覚悟している。元恋人同士の間で、小鳥に来て欲しいと言う。それならと、小鳥は助手席のドアを開けてしまう。



< 318 / 382 >

この作品をシェア

pagetop