愛シテアゲル

5.エンゼル、ごめんなさい。(2)



 急いで翔の部屋に戻ると、ふぎゃふぎゃと泣きわめく赤ちゃんの声が響き渡っている。

 玄関からリビングに駆け込むと、疲れ切った翔がそれでも赤ちゃんを抱いて、部屋の中をうろうろと歩いていた。

「お兄ちゃん」
「小鳥。大丈夫だったか」

 大丈夫じゃない。MR2が壊れた。ううん、壊された。でも小鳥はそう言いたいのをぐっと堪えて、赤ちゃんへと駆けつける。

「どーしよう。きっとお母さんがいなくなったことをわかって泣いているんだよ」

 翔の腕から自分の腕へと抱き変える。それだけでも翔兄がほっと人心地ついた顔をした。

「わ、オムツぱんぱんじゃん」
「俺、買いに行ってくる。どんなのを買えばいいんだ」
「うーん。このぐらいの子だと、いちばん小さなオムツでいいんじゃないかな」
「いちばん小さなオムツ? サイズ表示はなんだ。SとかMとかLで表示されているのか? それとも月齢? 行ってみたらわかるものなのか」

 流石のお兄ちゃんも、こればっかりは知識なし。見たこともない顔で唸っている。

 小学五年生の時、母の親友で武ちゃんの奥さんでもある『紗英ちゃん』が出産をした。四十歳を超えていたというのに『これが最後のチャンス』と高齢出産をして、しばらくはその一粒種の男の子が龍星轟で小さなアイドルになったことを思い出す。

 自営業だったので、父親の英児が良く預かって不慣れな武ちゃんに先輩パパ面大全開で面倒を見たりしていた。歳が離れた弟がまたできたと、小鳥も良く面倒を見ていた。

 といっても。あれってもうだいぶ前。いまはその小さな武ッ子は生意気な小学生。小さなママ気分でオムツを替えたのも遠い昔だった。



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