女王の密戯
不敵の女王は魅惑の笑みを
豪華絢爛という言葉がしっくりとくる程にきらびやかなステージは日本でも屈指の高級ホテル。その大広間は普段は一流企業の社長就任の場や、著名人の結婚披露宴などに使用されている。

「日本映画賞、本年度の最優秀主演女優賞は……」

若く美しい女が張り切った声をあげ、そこで一旦ためた。会場ではそれに続く名前を今は今かと待ちわびる沢山の視線。
ステージに並ぶ豪華なドレスを身に纏った五人の女性のうち四人はその瞳に少しばかりの不安も滲ませている。

だがそのなかで一人だけ、真っ赤なルージュで彩った唇を微かに開き、瞳には輝きしか携えていない女がいた。背筋を真っ直ぐに伸ばし、豊満過ぎる胸元を目立たせるかのように華麗に立っている。

その胸を更に強調するように真っ赤なドレスの胸元は大きく開き、柔らかな谷間を惜しみ無く披露している。そんなドレスは背中の部分も大きく開いていて、真っ白な柔肌と美しいまでの肩甲骨がよく見える。

「米澤紅華(よねざわ こうか)さんです」

昨年同じ賞を手にした美しい女が声高々にその名を告げると会場には歓声が湧いた。それを合図に真っ赤なドレスを見事に着こなした女――米澤紅華が足を一歩前に踏み出した。

長くスリットが入ったドレスの裾を紅華が翻すと、すらりと伸びた美脚がちらりと見える。紅華はわざと太股が見えるように歩いているのか、魅惑的な脚はオレンジ色のライトに照らされ更に魅惑的に見える。

「米澤さん、四度目の授賞、おめでとうございます。今年はハリウッド映画にもご出演され、活躍の場を広げられたと思いますが」

流暢な言葉で男性アナウンサーが訊くと、紅華はにこりと微笑んだ。それは見る者全てがうっとりとするような微笑みだ。

アナウンサーはそれに見惚れてか、マイクを彼女の前に出すのがワンテンポ遅れた。

紅華はマイクを口許に差し出されると、もう一度微笑んでから真っ赤に口紅を塗った唇をゆっくりと開いた。


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