女王の密戯
女王と共に晩餐を
紅華が案内してくれたのは所謂「料亭」と呼ばれるような店だった。敷地内の庭には庭石が広がり風情を漂わせている。
余程の行き付けなのか紅華が門扉を潜るなり女将とおぼしき着物姿の女が優雅に訪れ、深々と頭を垂れた。

部屋にもその女将自ら案内してくれるほどで、部屋までの廊下も見事に磨かれていた。
茶田はその様に何処か落ち着かず、胸の奥がむず痒くなったがそれとは反対に三浦は落ち着いた様子で紅華と女将の後をついている。

今時の若者がこんな場所に訪れ慣れているということは到底考えづらいので、彼は意外にも両家の子息なのだろうか。茶田はぴんと伸びた三浦の背中を見ながらそんなことを思った。

「此方です」

女将は美しく洗練されたような動作で襖を開けた。その部屋は旅館の一室と言われても納得出来るほどの広さがある。障子が開けられた先にはガラス戸があり、綺麗に手入れされた庭を一望出来る。
石塔に灯された蝋燭の灯りが庭を更に美しく演出している。

「お料理はお任せします」

頭を深く下げている女将に紅華か告げると女将は畏まりました、と可憐な声で返した。
着物姿にひっつめた髪、そして女将ということから中年に近い女性だと思っていたがどうやらまだ彼女は二十代のようだ。

若女将なのか、それともこの若さでこれ程の店を切り盛りしているのかは茶田にはわからない。
しかしどのどちらでも自分には関係ない。茶田はそう思いながら妙に厚みを感じる座布団に腰を下ろした。そんなことより、ここでかかった料金は経費で落ちるのかどうかのほうが気掛かりだ。

恐らく、落ちない。となるとどうしても今月の生活がきつくなる。茶田は内心で溜め息を吐きながら、彼女に場所を任せたことを小さく後悔した。



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