瞳の向こうへ
まだ少し引きずっているけど、ほとんど違和感はないよ。

「先生、何か飲みます?おごりますよ」

加奈子ちゃんが自分で自販機に行こうとした。

「ダメダメ。生徒にねだる教師がいたら」

加奈子ちゃんを椅子に座らせ私が二本分買った。

「先生、どうしたんですか?旅行?」

「え?そうねえ……」

どうしようか……。

事情全部説明したら加奈子ちゃんどうするんだろうか……。

「先生?」

「加奈子ちゃん、葵ちゃんがまた旅行で遊びに来てるらしいんだけど、加奈子ちゃんのとこ来たかなあって」

これで来てますって言ってくれればもうけものよ。

「葵ちゃん?来てませんよ」

ずいぶんとあっけらかんに否定したなあ。

「ホント?」

「ホントですよ。ま、来てても言うわけないですけどね」

「え?それって?」

「例えばの話ですよ〜私知りません」

いちカウンセラーの私は加奈子ちゃんの表情を読みとくプロじゃないから、これ以上は追及出来ません。

「わかった。電話すればわかるでしょうから」

「それより先生、予定変わって暇になって。何かないですか〜。もう退屈〜」

いつから加奈子ちゃんは駄々をこねる子供みたいな喋りを覚えたんだろうか?

「そうね……。先生がさっきまでやってたゲームアプリを教えるからやってみなさい。ハマるよ」

「やります!!」

結局、居場所がわからず病院でゲームに明け暮れることになるのか。

こんな大雨の中で葵ちゃんはどこ行って立ち直るんだろうか?

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