Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
―ケインSIDE―

 一四三六年十月二十二日。午後三時。

 ケインは、リンリスゴーの屋敷にいた。今日はダグラスが訪ねてくる予定となっていた。折り入って話をしたいという手紙が、前もって届いていた。

 ケインは書斎を出ると、応接間に向かった。そろそろ約束の時間となる。一通りやるべき仕事も終わっていた。

 まっすぐに伸びている廊下を歩いて、ケインは玄関ホールに出た。玄関ホールの右側にあるドアが外に出るドアになり、左側に見えるドアが応接間となる。

 ケインは玄関ホールに執事の他に二人の男がいるのに気がついた。

 視線を動かしてみると、執事が手渡したタオルで、ダグラスが濡れた体を拭いている最中だった。

 もう一人、四十歳代の男も身体を拭いていた。たぶんダグラスの従者だろう。

 今日は朝に少し晴れ間を見せたきり、外は雨が降り続いていた。気温も低く、冷たい雨でダグラスの身体は冷え切っているだろう。

 応接間に通して、暖炉の前で暖まるように言うのが当たり前の行為かもしれない。ケインには、ダグラスを心配する気持など少しも生まれなかった。

 ダグラスと会話をするのでさえも、面倒だと思っていた。今日の面会も、断ってしまっても良かった。
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