Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「ケイン殿が控えの間にいるなんて、珍しい」

　ダグラスから声を掛けてきた。ケインはダグラスに笑顔を見せた。

「ダグラスが来ているなら、酒を飲みたいと思ったので」

　ダグラスが不思議そうに顔を傾けた。ケインから酒を誘ったのは初めてだったからだろう。

「以前、僕の屋敷に来た三人とも、ぜひ酒を飲み交わしたい」

　ダグラスの目が細くなり、顔には笑みが広がっていった。ケインが言わんとしている内容を理解したようだ。

　ダグラスが伸びている白い髭を触りながら、視線を上にした。

「明日の晩、エディンバラにあるミリーで待ち合わせるのは、いかがでしょう？」

　ダグラスの口が動いた。ダグラスが嬉しそうな顔をしていた。

　ケインの脳裏には「ミリー」というパブの看板が浮かんだ。何度か店の前を通った経験はあるが、中に入ったのは一度もなかった。

（明日には話が進められる）

　少しでも早く決めて、ケインは心を落ち着かせておきたいと思っていた。パースでの暗殺に賛成してもらい、詳しい話を詰めておきたい。
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