Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「国王陛下に、勝利を持ち帰ります」

 ケインとゼクスが膝をついて、ジェイムズⅡ世より頭を低くした。ジェイムズⅡ世が大きく何度も頭を上下させた。ケインに、ジェイムズⅡ世が抱きついてくる。

「絶対に生きて帰ってきて。父上」

 耳元で小さく囁くジェイムズⅡ世の言葉に、ケインは驚いて目を大きく開いた。ジェイムズⅠ世の子として育てられ、ケインの子だとは誰にも言っていない事実を、どうして知っているのだろう。

 ケインはジェイムズⅡ世の両肩を抱いて、息子の顔を見た。ジェイムズⅡ世の青い瞳には、ケインの顔が映っていた。

 ジェイムズⅡ世の容姿は、年を重ねるごとにジョーンに似てきている。それでも黄金に輝く髪と青い瞳は、ケインと一緒だった。茶色の髪に、黒い瞳だったジェイムズⅠ世と、ジェイムズⅡ世の美しさとは似ても似つかない。

「約束しましょう。必ず、生きてエディンバラ城に戻ってきます」

 ケインはジェイムズⅡ世の背中を擦ると、立ち上がった。玄関のドアに立っている執事に視線を送った。

 執事がゆっくりと扉を開けると、大きな歓声に包まれた。槍を楯に立てて、リズムを刻む兵士の間から各貴族の紋章が縫われている旗が天高く掲げられた。

 晴れた空には雲ひとつないスカイブルーが続いていた。太陽の暖かい日差しが、ケインの身体を包みこむ。

(いよいよダグラスとの戦だ)

 ケインは深呼吸をすると、大きく一歩を踏み出した。まるで太陽に祝福されているような気分だった。
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