Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
―ジョーンSIDE―

 一四二八年、七月十七日。午後二時。

 今日は、ジョーンの娘ジョーンの誕生祝だった。産まれてから四ヶ月が過ぎ、スコットランド一円の貴族をエディンバラ城に集めて、お披露目をする予定である。

 ジョーンは二人目の出産だった。一人目は一四二四年に生まれていた。女児でマーガレットと名づけられた。

 ジョーンは大広間の前の廊下で、深呼吸を一回した。

 隣にはジェイムズが立っていた。豪華な服から白い顔が出ていた。屋内で過ごす時間が多くなったのを物語っている。ジョーンの肌のほうが陽に焼けていた。

「ジョーン、無理はするなよ。疲れたらすぐに部屋に戻っていいからな」

 隣に立っているジェイムズの声が頭上から聞こえてくると、ジョーンは顔を横に向けた。

(どうしたのかしら?)

 ジェイムズの優しげな瞳が、ジョーンを見つめていた。ジョーンを思いやる言葉を、ジェイムズが発するなんて珍しい。

「久々だろう。大勢の人間に接すると疲れる。疲れたら、すぐに休むといい」

 ジョーンは笑顔になると、頷いた。ジェイムズも深く頷くと、前を向いた。

 もうすぐ大広間の扉が開き、貴族たちが待っている室内に入る。ジェイムズの後ろには、家臣が三人。ジョーンの後ろにはケイン、エレノアとローラが立っていた。

 エレノアの腕の中には、まだ首が座って一ヶ月しか経ってない小さい乳児が、白い布に包まれて抱かれていた。

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