Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
(ジェイムズから言ったのは、事実でしょうね)

 ジョーンは緑の芝生に視線を落とした。ジェイムズにとって、レティアは遊びでしかない存在なのだ。

 一時の快感を求めているだけ。レティアを囲い者にする気などないのだ。

 レティアを愛し、大切に思っているなら、妊娠がわかった時点で、腹の子がジェイムズの子だと堂々と宣言でもしそうだ。

 ジェイムズが用意するであろう別の城で、レティアと生まれてくる子と優雅に暮らすくらいはするだろう。

 だが現実はどうだろうか。ジェイムズとの関係を隠したまま、レティアはロイ・クライシスと結婚をした。

 王妃になりたいとレティアを思い出すと、大声で笑い出したい気分になる。

(レティア、人生は甘くないのよ)

 本で隠していたジョーンの口が緩んだ。

 美貌と若さで、何でも思うとおりにいくと思ったら大間違いだ。ジェイムズと寝屋を共にしたからって、すぐに夢が叶うわけじゃない。

(ケインを、口説こうとした罰だわ)

「ローラ。レティアの子が産まれたら連絡してくれるよう、友人に頼んで頂戴」

 ローラが短い返事をしてから、ジョーンの後ろに下がった。
< 75 / 266 >

この作品をシェア

pagetop