空色の瞳にキスを。

2.フェルノール

自室に戻ったナナセは、ぺたりと床に座り込んだ。

廊下を歩いてカイの部屋からここまで来るときには誰にも出会わなかった。
早足で歩いてきたし、出会わなくてほっとした。

隠せる技がまだ無くて、左目に前髪を父のように垂らしているし、その下の瞳にはもう紺色の魔法陣が映っていると言われたから。


今はロウも寝てしまっていないみたいで、この部屋には彼女一人だ。

家具も綺麗に整頓されている。

誰もいない広い部屋は静寂がナナセの背中を舐めるようで、久しぶりに一人が怖く思えた。


追われたり襲われたりするのなら、ちゃんと荷物作って逃げる用意しておいた方がいいのかな、と思い付いた彼女は広い部屋を見回し小さな旅行鞄を取ってきた。
床に広げ、色々なものを詰めていく。
旅行は何度かした覚えがあるから、彼女は子供にしては手際よく詰められる。


けれど、今度の荷造りはそんな穏やかで優しいものではない。

彼女なりに現実を重く受け止めていたはずなのに、現実は先をいくことなどナナセはまだ知らない。

それでも、さっきの鋭い銀の瞳が頭から離れなかった。

追われるということを、はっきり考えたことなんて、もちろんなかった。

ただ荷物を詰めるだけなのに、手を止めたくなかったのは、父の行動の意味を考えたくなかったからかも知れない。

荷作りが終わるとなんだか急に眠気がどっとやって来て、ベッドに倒れこみ、瞼を閉じた。

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