空色の瞳にキスを。

3.古き友人

空を飛んでいると雲行きが怪しくなり、雪が降ってきた。

吐き出す息は、白くて。


南に向かっているのに、雪が舞っている。

北の方はどれだけ寒いのだろう。


「ルグィンも今日はよろしくね。」

ぽつりと、黒髪の少女が言う。

瞳はまっすぐ前を向いて、隣を駆ける黒猫に視線を送らない。


「あぁ。もちろん。

きっと、戦闘になるぜ。
覚悟しておけよ。」

いつもと変わらない、ごく自然な手の届くか届かないかの距離がお互いの心に安心を生む。

「…分かってる。

二人で乗り込むんだもの、きっと大変ね。」


真面目そうに言ったかと思えば、今度は柔らかく笑う。


それきり会話は二人の間には無くなる。

それでも二人は息苦しくなくて。

張り詰めた緊張を崩すように、二人は時々言葉を交わす。



随分空を駆けて日が傾いてきていた頃、高くそびえる山脈が見えてきた。


見えた瞬間から、ファイの瞳は山脈から動かなくなる。

黒い瞳に、彼女の顔に、緊張が走る。


少女が吐いた白い息は、空を駆ける速さに負けて白さは言葉と共に後ろへ消えていく。


「あれを越えれば―…」


黒水晶のような瞳は目の前に高くそびえる山々を見つめたまま。


「そう。

あの山を越えれば…メノウだ。」


ルグィンの声も心なしか固かった。

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